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パーキンソン病はこわくない

若年性パーキンソン病に罹患した筆者が綴る悲喜交々

嗅覚の異常からパーキンソン病を早期発見!? 

【日経トレンディネット 2017.5.11掲載】

先日、文京学院大学で同大学人間学部の小林剛史教授による「“におい・かおり”の最前線」をテーマにしたセミナーが行われた。私たちは普段さまざまなにおいや香りに囲まれて暮らしているが、実は嗅覚のテストによって病気の早期診断につながることもあるという。においにまつわる最新情報を紹介する。

日本は無臭文化。それは心身を疲弊させる!?

 夏はもちろん、一年中自分の体臭が気になるという人は多いのではないだろうか。また、体臭や口臭、さらに衣類の洗濯に使う柔軟剤の香りなどによって周囲に不快感を与える「スメルハラスメント」という言葉も数年前から使われるようになったり、体臭や部屋のにおいを消すデオドラント剤が注目を集めるなど、「日本はにおいや香りに対して敏感な『無臭文化』のある社会と言っても過言ではないだろう」と、小林教授は話す。
 においや香りをケアすることは職場などで円滑な人間関係を保つためにも大切だが、無臭文化の行き過ぎによる弊害もあるのだそうだ。
 「もちろん、不潔であることによる体臭や、タバコ臭などの有害なニオイは例外だが、においや香りに神経質になり過ぎると、他人に不快な印象を与えているのではないか、という不安をあおり、強迫性を助長するなど、心身に影響を及ぼす可能性があることが分かってきた」(小林教授)。
 そのような影響が起こる一つの原因が、においを感知するプロセスにあるという。
 「人間の五感のうち、嗅覚だけは大脳辺縁系に直接作用する。大脳辺縁系は、感情をつかさどる脳の中でも原始的な部分。『不快なにおいだ』とストレスを感じ続けると、大脳辺縁系の活動が過剰になる。それにともなって、社会性や理性をつかさどる前頭葉の活動が停滞したり、深刻なケースでは萎縮してしまうので、不安や依存、強迫的行動などが強まる」(小林教授)。さらにストレスが蓄積すると、他人を受け入れられなくなったり、自己否定につながる場合もあるというのだ。
 「欧米では香水をたしなむなど香りの文化が成熟しているが、日本人もにおいや香りとうまく共存できるようになれば、豊かな生活が送れるのでは」と小林教授。においや香りに対する意識の変化が、今後求められていくのかもしれない。

嗅覚障害がパーキンソン病の診断指針に

 さらに最新の研究では、嗅覚障害とパーキンソン病との関係性が明らかになり、パーキンソン病の診断に嗅覚検査が利用され始めているという。
 嗅覚障害には、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、風邪が治ったあとに起こる感冒後嗅覚障害、本来とは異なるにおいを感じる異臭症などの鼻の病気や、頭部外傷による脳の障害、加齢による嗅覚の衰えなど、さまざまな種類がある(参考:「みんなの嗅覚」)。
 そして、パーキンソン病やアルツハイマー病など、何らかの原因によって脳の中枢神経に障害が起こる疾患も嗅覚障害が発病早期に現れることから、嗅覚機能評価は早期診断をするための指針の一つとして、医療の現場で注目を集めている。
文京学院大学人間学部の小林剛史教授によると、嗅覚が正常な人と重度の嗅覚障害の人を比べると、重度の嗅覚障害がある人のほうが脳萎縮の進行が早いという(出典:Brain2012 135(1):161-169)
 「パーキンソン病の場合、手足がふるえたり、動きが遅くなったりなどの運動症状が現れる以前から嗅覚障害が認められる。これは経過中の約90%の患者に見られる症状」とは、パーキンソン病の臨床研究を行う東京女子医科大学の飯嶋睦准教授だ。
 パーキンソン病は60歳代で発病することが多い。レビー小体という神経細胞の内部に見られる異常な構造物が、脳だけではなく体のさまざまな部位に発生することで、運動症状や自律神経症状が現れる。「特に、嗅球(脳にある嗅覚情報を処理する部分)には早い時期からレビー小体が認められるため、パーキンソン病の発病早期の症状として嗅覚障害が現れる」と飯嶋准教授は話す。
 「嗅覚障害は、パーキンソン病の早期診断のバイオマーカー(体の状態を客観的に測定し、評価するための指標)の一つと考えられている。また、嗅覚機能の低下が顕著な場合、将来認知症を合併する可能性が高いとされている」(飯嶋准教授)

においの種類を当てる検査で病気を早期診断できる


 飯嶋准教授が、同大学病院で10年ほど前からいち早く診療に使用しているのが、「においスティック」(OSIT-J)だ。においスティックは、嗅覚の同定能力(においを嗅いだときに、何のにおいかが分かる能力)を測定することができるもの。
 においの種類は、花、果物、草木のにおいや、生活の中の危険なにおい、不快なにおいなど全12種類。それぞれの嗅素をマイクロカプセル化し、ワセリンなどに混ぜ込んで、リップスティック型に成型している。
「においスティック」は、13本(12種類+無臭1本)のにおい提示器具、選択肢カード、薬包紙のセット。1セット6万円(第一薬品産業)
 測定方法は簡単だ。検査者は、においスティックを塗布した薬包紙を半分に折って被験者に渡す。被験者は、薬包紙をこすり合わせてマイクロカプセルをつぶしてにおいを発生させ、4つの選択肢・無臭・分からないと書かれたカードから回答する。検査の所要時間は約20分程度。すぐに測定結果が分かることや、においはマイクロカプセル化されているため、周囲に拡散しないことなども特徴だ。
 この検査は耳鼻咽喉科での使用にとどまらず、神経内科でも研究などに利用され始め、においスティックを販売する第一薬品産業によると、現在約400施設で導入され、そのうち神経内科での導入が特に増えているのだという。
 「嗅覚検査は、パーキンソン病のほか、軽度認知症やアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患の早期診断や、パーキンソン症候群の鑑別にも有効。現在は保険適用外だが、将来的に保険適用で行われることが望まれる」(飯嶋准教授)
 もし、においを感じづらくなったら、医療機関を早めに受診しよう。自分の嗅覚に意識を向ける習慣を持つようにすると、大きな病気の発見につながる可能性もある。日常で、人に不快感を与えるようなにおいや香りに注意することはもちろん大切だが、嗅覚は健康のバロメーターの一つであるということも、覚えておくとよいかもしれない。

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category: 【報道・記事】

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