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パーキンソン病はこわくない

若年性パーキンソン病に罹患した筆者が綴る悲喜交々

進む新しいパーキンソン病治療可能性 

【西川伸一 NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン代表理事 2017.9.3ヤフーニュース掲載】

先週はパーキンソン病の治療法として期待できる論文がNatureとScienceに掲載されたので紹介することにした。

高橋淳さんの細胞治療論文
先週8月31日、まず京大の高橋淳さんのグループから、ヒトiPSを用いてサルのパーキンソン病モデルを治療する前臨床試験(臨床に入る前の動物実験)を集大成した論文が8月31日号のNatureに発表され、我が国のマスメディアでも大きく取り上げられていた(Kikuchi et al, Nature, 548:592, 2017)。

内容はメディアで紹介されている通りで繰り返さないが、一つだけ強調したいことがある。高橋さんはパーキンソン患者さんに多能性幹細胞由来のドーパミン細胞を移植するためには、1)異常増殖の起こらない細胞の調整の仕方、2)万が一細胞が増殖しても治療が可能であることを示すことが、細胞移植の効果を示すのと同じだけ重要であると考え、研究に時間と金のかかるサルにこだわって長年研究を続けてきた人だ。実際、10万個程度の細胞で治療が可能な黄斑変性症と比べると、少なくとも500万~1000万個の細胞が必要なパーキンソン病は、安全性のハードルが高い。様々な批判を乗り越えてこれを解決した高橋さんの臨床家魂に敬意を表したい。

いよいよ臨床試験で、次は患者さんの望みを実現して臨床のトップジャーナルに論文が掲載されるのを心待ちにしている。

パーキンソン病の発症を遅らせる治療薬
細胞治療は失われてしまったドーパミン産生細胞を外から補う治療法だが、徐々にドーパミン細胞が失われるパーキンソン病では、細胞が失われる速度を抑制することも重要な治療の方向性になる。高橋さんの論文に続いて9月1日、パーキンソン病進行に関わるシヌクレインの産生を喘息治療に使われるβ2アドレナリン受容体刺激剤が抑制し、これによりパーキンソン病の発症を遅らせる可能性を示す画期的な論文がScienceに発表された(Mittal et al, β2-adrenoreceptor is a regulator of the α-synuclein gene driving risk of Parkinson’s disease(β2アドレナリン受容体はパーキンソン病のリスクを高めるαシヌクレイン遺伝子の調節因子だ), Science , 357:891, 2017)。

この研究では、神経細胞株を用いて、パーキンソン病の進行を促進するαシヌクレインの発現を抑えることのできる化合物の大規模なスクリーニングを行い、30種類近くの化合物を発見している。今後それぞれの化合物を検討する段階に入るが、見つかった化合物のうち3つがβ2アドレナリン受容体の刺激剤であることに着目し、β2アドレナリン受容体刺激剤に絞って研究を進めている。

というのも、β2アドレナリン受容体刺激剤は喘息の治療薬としてFDAに認可されている数々の薬剤が開発されており、うまくいけばすぐに治験に入れる。

この研究では喘息などの気管支拡張薬として最もよく使われるサルブタモールを使って細胞株を刺激する実験から、サルブタモールがβ2アドレナリン受容体を刺激するとシヌクレインの合成が抑制されることを確認している。

続いてマウスへの投与実験を行い、パーキンソン病で失われるドーパミン細胞のシヌクレン合成が、サルブタモール投与で3割程度低下することを明らかにしている。

次は人間でサルブタモールがパーキンソン病を抑制することができるかを調べる必要があるが、著者らはこの目的のために、国民一人ひとりに投与された薬物が克明に記録されているノルウェーのデータベースを用いることを思いついた。

このデータベースからサルブタモールを使用した人と、使用経験が全くないを分けて抽出し、パーキンソン病の発症比率を調べると、驚くなかれ、使用した場合はパーキンソン病発症が3-4割低下することがわかった。

では逆にβ2アドレナリン受容体を抑制すると何が起こるのか?臨床では、β2アドレナリン受容体刺激剤だけでなく、β2アドレナリン受容体を抑制する薬剤も、血管を拡張させる目的で使われている。この代表格プロプラノールを使用している患者さんと、使用していない人を分けてパーキンソン病の発症率を比べ、プロプラノールを使っている人では、なんとパーキンソン病の発症率が2倍に上がっていることを突き止めている。

最後に、パーキンソン病の患者さんからiPSを作成し、患者さんの iPS由来ドーパミン神経のシヌクレインの発現が、サルブタモールで強く抑制できることを確認している。

以上の結果は、サルブタモールがパーキンソン病を発症した患者さんでも、その進行を抑制できる可能性を示している。

これまで私が見てきたパーキンソン病の進行を遅らせる薬剤の研究の中では、実現可能性という点では画期的だという印象を持つ。だからといって、すぐに現在進行中のパーキンソン病の患者さんにサルブタモールを投与するのは、心臓や血管への影響を考えると危険だ。

できるだけ早くこれまでの喘息患者さんへの投与プロトコルと副作用を分析し、パーキンソン病の患者さんへの最も合理的プロトコルを作成して、発症後の患者さんについて治験を行って欲しいと思う。

私が論文を読んできた中で、これまでパーキンソン病の治療として最も早く立ち上がっているのは、臨床治験が進む遺伝子治療だが、高橋さんの治験も、サルブタモールの治験もそう遠い話ではないと私は期待している。

<https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20170903-00075316/>

category: 【報道・記事】

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