リー・シルバーマン療法 (LSVT)は、 運動障害改善を目的とした LSVT BIGと、L発話障害改善を目的としたLSVT LOUDからなり、体を大きく動かし、大きな声を出す練習をして、パーキンソン病患者の過剰に小さくなった感覚情報を自己修正するための再教育プログラムである[1,2]。
LSVT BIGはUPDRS part III、Timed Up and Goテスト、10メートル歩行テストのスコアを有意に改善することが分かっており、運動機能の改善効果が認められている[1]。LSVT LOUDについては、パーキンソン病の発声を改善させる効果が確認されている[2]。さらに、Miles A.らの研究では嚥下および咳の強さに対する改善効果も示されている[3]。この研究の中では、嚥下の評価はビデオフルオロスコープにより行われ、咽頭食道接合部の開口時間と最大開口等の大幅な改善が確認された。また、咳の評価にはスパイロメトリーが用いられ、Peak expiratory flow rate (PEFR)とPeak expiratory flow rate (PEFR)の有意な改善が確認された。さらに、これらの改善はLSVT LOUD実施から6か月が経過しても維持されることも示されている。パーキンソン病の嚥下障害に対して、内科的および外科的治療では難渋することも多く、このような代替療法が期待されている。
また、LSVT LOUDを含む言語聴覚療法 (SLT: Speech and Language Therapy)に対する費用対効果についての調査もあり、LSVT LOUDとイギリスにおいてスタンダードな言語聴覚療法であるUK National Health Service speech and language therapy (NHS SLT)との費用対効果の比較が行われている[4]。この無作為コントロールパイロット試験では、発声と会話障害を呈するパーキンソン病患者を、LSVT LOUD群(n = 30)またはNHS SLT群(n = 30)、及び治療をしないコントロール群(n = 29)の3群に分け、コスト、発声や日常生活動作の成果を解析している。発声の指標であるVoice Handicap Indexの評価は、各群前向性に3か月ごとに12か月まで行われ、コントロールと比してLSVT LOUD群のみ6, 12か月で改善が得られることが確認された。一方、健康関連のQoLスコアであるEQ-5D-3Lは3か月ではNHS SLT群で良好であったが、12か月目には発声や日常生活動作に各群で差はなかった。全言語聴覚療法の平均コストはLSVT LOUD群でコントロール群に比べ年間約1,500ポンド程度有意に高価であった[4]。
LSVT LOUDは高価ではあるが、パーキンソン病患者の発生障害に対し持続する効果が得られるかもしれないことを示唆している。
参照文献
[1]
McDonnell MN, et al.
Lee Silverman Voice Treatment (LSVT)-BIG to improve motor function in people with Parkinson’s disease: a systematic review and meta-analysis.
Clin Rehabil. 2018 May;32(5):607-618. doi: 10.1177/0269215517734385.
[2]
Ramig LO, et al.
Changes in vocal loudness following intensive voice treatment (LSVT) in individuals with Parkinson’s disease: a comparison with untreated patients and normal age-matched controls.
Mov Disord. 2001 Jan;16(1):79-83.
doi:10.1002/1531-8257(200101)16:1<79::aid-mds1013>3.0.co;2-h.
[3]
Miles A, et al.
Effect of Lee Silverman Voice Treatment (LSVT LOUD®) on swallowing and cough in Parkinson’s disease: A pilot study.
Jardine M, Johnston F, de Lisle M, Friary P, Allen J.
J Neurol Sci. 2017 Dec 15;383:180-187. doi: 10.1016/j.jns.2017.11.015.
[4]
Scobie S, et al.
Lee Silverman Voice Treatment versus standard speech and language therapy versus control in Parkinson’s disease: preliminary cost-consequence analysis of the PD COMM pilot randomized controlled trial. Pilot Feasibility Stud 7:154, 2021. https://doi.org/10.1186/s40814-021-00888-y