Freezing of gait (FOG)は歩行時に足をうまく踏み出せなくなるパーキンソン病の運動症状である[1]。いくつかの研究ではメトロノームや音楽等の聴覚キューがFOGの改善に有効であることが示されている[2,3]。FOGの一因としては、パーキンソン病患者のリズム感覚が正常でないことが挙げられ[4]、次の音を予測して踏み出すことを可能にさせる聴覚キューは、外部からリズム感覚を正常化させるアプローチと言える。しかし、聴覚キューと歩行を同期させるためには全てのステップを調節する必要があることから、認知負荷が高く、歩行変動を悪化させる可能性がある[5]。これに対して、歌を歌うことでキューを自己生成し、歩行を改善する方法が研究されている[6-8]。このような方法では、外部キューとの同調は不要である。Harrisonらは歌を歌うことにより生成した自己生成キューが歩行に与える影響を調査した[6]。結果、自己生成キューが歩行速度、ケイデンス、および後ろ向き歩行の歩幅の改善に関連し、前方および後ろ向き歩行の変動性を減少させることが示された。さらに、Horinらは実際に歌を歌うのでなく、頭の中で歌うことで自己生成したキューが歩行へ与える影響を調査した[7]。結果、自己生成キューの歩行速度やケイデンスは聴覚キューに比べて低かったが、歩行変動に関しては大幅に低減させることが示された。歩行変動は転倒リスクと関係しており、自己生成キューは転倒リスクの低減につながる可能性がある。自己生成キューを用いることで歩行変動を悪化させることなく歩行を改善させることが可能である。... 続きを読む
タグ: パーキンソン病 (1ページ目 (2ページ中))
てんかんの補助的な神経調節療法として迷走神経刺激(vagus nerve stimulation :VNS)がある。これは、外科的に刺激装置を埋め込むことにより行われる治療であり、既にFDAの承認を受けている[1]。VNSは、孤束核や青斑核への直接的な作用を通じて、様々な脳領域に影響を与えるとされている[2,3]。VNSの効果としては抗炎症作用が示唆されており[4,5]、幅広い炎症性疾患への応用の可能性が提唱されている[6]。パーキンソン病の病態は神経炎症に関与しているとされることから、パーキンソン病の治療にも有効であると考えられる[7]。... 続きを読む
Freezing of gait (FOG)は歩行時に足をうまく踏み出せなくなるPDの運動症状である[1]。FOGは、疾患の進行に伴いかなりの患者で出現し、20年の罹病後には最大で81%の患者に影響を及ぼすともいわれている[1,2]。FOGは歩行困難やQOLの悪化、転倒リスクの増加等につながるため対策が重要である[3-6]。現在の薬物療法や外科的治療では、FOGに対する効果が限定的であることから外部刺激によるFOGの改善も試されている。具体的には、足を踏み出すための手がかりであるキューを提示するキューイングデバイスを用いたアプローチがある。キューの種類としては、足を踏み出す場所を視覚的に提示する空間的なキューや、メトロノームや振動等により動作のタイミングを知らせる時間的なキューがある。視覚的なキューの例としては床に水平線を引く方法があり、これは歩行、歩幅、歩き始めを改善することが示されている[7-9]。... 続きを読む
パーキンソン病患者では高度の腰曲がり、頸下がり、体幹側屈(ピサ症候群)などの姿勢異常がしばしば認められる。原因として中枢と末梢の多因子の異常、すなわち大脳基底核や知覚運動統合の異常、体のスキーム知覚や姿勢コントロールに関する認知機能の異常、筋骨格系の変化などが関与していると考えられており、具体的にはジストニア、固縮、固有知覚異常、空間認知能の異常、傍脊柱筋の炎症、脊椎や脂肪組織の変化などが原因として指摘されている[1,2]。また、ドパミンアゴニスト、抗コリン剤、アマンタジンは姿勢異常の原因となる可能性があるとされている。こうした姿勢異常は痛みや転倒リスクを増大させ、QOLを悪化させる要因となる。... 続きを読む
パーキンソン病は薬剤の効果が認められる疾患であるが、進行性の変性疾患であり、症状の変動に対しての薬剤反応性には限界がある。それを補うために、深部脳刺激術や薬剤経腸投与などが行われている。一方で、非薬物療法の一つとして、様々なリハビリテーションが試みられている。パーキンソン病に対するエクササイズを用いたリハビリテーションの有効性が示されている臨床試験が散見され、中でもサイクリングやトレッドミルを用いた有酸素運動が運動症状の改善に有効であると報告されている[1-4]。... 続きを読む
リー・シルバーマン療法 (LSVT)は、 運動障害改善を目的とした LSVT BIGと、L発話障害改善を目的としたLSVT LOUDからなり、体を大きく動かし、大きな声を出す練習をして、パーキンソン病患者の過剰に小さくなった感覚情報を自己修正するための再教育プログラムである[1,2]。... 続きを読む
パーキンソン病は神経変性疾患のなかでもアルツハイマー病と並んで最も多い疾患の一つである。パーキンソン病の有病率は、日本では10万人あたり150人程度であるが、寿命が延びていることで今後は増加することが予想される。また、生活習慣病である糖尿病も非常に多い疾患であり、その有病者は1000万人を超えるといわれている。これらの疾患が合併することは稀ではない。また、低体重もパーキンソン病発症のリスクであると報告されている[1]。つまり、低体重や糖尿病などの生活習慣病の管理が治療のオプションになる可能性がある。... 続きを読む
123I-ioflupane (DaTSCAN®) SPECTなどによるdopamine transporter (DAT)の検出は、線条体のpresynaptic axon終末におけるDATを検出することで黒質-線条体路の神経変性の程度を描出するため、パーキンソン病の診断補助として広く用いられている[1]。パーキンソン症状が認められた場合、DAT SPECTで線条体における信号低下が認められれば、特発性パーキンソン病の他、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、レビー小体型認知症などが鑑別にあがる。一方、信号低下がない例では、心因性、薬剤性/脳血管性のパーキンソニズムやジストニアなどの可能性も考えなければならない[1,2]。... 続きを読む
パーキンソン病は寡動、振戦、固縮などの運動症状が主症状であることは有名であるが、自律神経や認知機能低下などの非運動症状もしばしば見られる。これらの非運動症状は運動症状に先行することもあり、早期から非運動症状を合併した場合には運動症状の進行が速いとする報告もある[1]。視力障害も非運動症状の一つであるが、パーキンソン病の進行との関係ははっきりしていなかった。しかし近年、韓国の全国調査では、視力障害を認める患者はパーキンソン病進行と関連し、運動症状の進行以前にみられる病状の一つである可能性が示唆された[2]。さらに、パーキンソン病患者では網膜の菲薄化、網膜神経線維層の進行性変化が見られるといった報告もある[3-5]。しかし、パーキンソン病は慢性経過で進行を呈する疾患であるため、長期的な観察が必要で、これまでの研究は不十分な観察期間であった可能性がある。視力低下は認知機能の低下とも関連しており[6]、様々な因子が複合的にパーキンソン病の進行に関わっている可能性を考慮しておく必要がある。... 続きを読む
病態生理学的研究は、臨床データと神経生理学的データとの相関関係を元に、根底にある病態のメカニズムを明らかにすることを目的としている。パーキンソン病に関連する研究においては、脳深部刺激療法(DBS)の作用機序の調査がその一例である。具体的にはパーキンソン病における大脳基底核の運動および非運動機能データと、局所場電位(LFP: local field potential)として知られる深部脳波信号を記録/分析することで、DBSの作用機序に関する洞察を得た研究がある[1]。このような研究においては、生体信号等の研究データを安全な環境で収集/共有することが重要である。... 続きを読む